進化の代償

※エキドナ、エンジェル、アルラウネ、セイレーン、リリス
※ほぼ夢主の独白
※名前変換少なめ
※ちょっとグロ注意?













私はこの数千年間、ただ強さを求めて生きてきた。
強くなる為に沢山の地を渡り歩き、沢山の強者に挑み、勝利してきた。
無敗ではなかったけれど、その敗北の度に、私は更なる高みへと掻き立てられ、血の滲む努力を重ねてきたのだ。

ただひたすらに己の体を、心を鍛え続け、徐々に世間から外れてゆく事にも、長い間気付きもしなかった。
不要なまでに力を追い求めた私に、同じ人間(いいえ、もう同じではないのだわ)の元へ帰る資格など、とうに無くなっていたのね。











「ナマエ……お前は、アタシ達の妹、だろ?」





あら、嬉しいわ、エキドナ。
こんな私を、妹と呼んでくれるのね。
あの日も、こんな私に、貴女達は笑い掛けてくれた。
人の道を外れてしまった異形の私を、嫌うでもなく、忌むでもなく……そう、まるで本当の姉妹であるかのように接してくれたわね。
傍に寄り添って、お喋りしたり、お食事したり、時には力を競い合ったりもして。
私達は、いつだって六人一緒だった。
姉妹のように、ね。
本当に、楽しかったわ。





「う……ナマエ、ちゃん……!」





ねえ、泣かないで、アルラウネ。
私は、貴女達が大好きよ。
優しくて温かくて、心地好い日だまりのような存在だった。
荒れた道を歩んできた私とは似ても似つかない貴女達が、私を同じ日だまりへと誘うの。
それが嬉しくて、どうしようもなく愛しかった。
だけどね、私は、その日だまりにはいられない。
強くなる為には、また荒れ果てた道を歩かなくてはならないのよ。





「ナマエ、待って、ナマエ……」





ああ、ごめんなさい、セイレーン。
もう、これ以上待ってはいられないの。
勘違いしないでね、嫌になったわけではないのよ。
貴女達と穏やかに過ごした日々は、とても素敵だった。
大好きな貴女達に囲まれて、私、とても幸せだったわ。
あの日々を手放してしまうのは名残惜しいけれど、それでも私は、やっぱり強さが欲しいの。
だからね、これでおしまい。
これで、お別れよ。





「ナマエ、もうやめてください!」





いいえ、それは無理だわ、エンジェル。
私は、私の望みのために、果たさなくてはいけないのだから。
そのためには、こうするしかないの。
だから、お願い、止めないで。
私は、進むしかないのよ。
この蕀の未来を、開花させるために。
それがたとえ、貴女達の笑顔を奪うことになったとしても。





「……そうまでして得る力に、なんの意味があるの?」





そんなこと、決まっているでしょう、リリス。
私は今まで、数千年という時を、この為だけに費やしてきたのだから。
その永き願いが、今、叶おうとしている。
求めた力が、指先に触れているのよ。
ならば、何をもっても得なくては。
こんなチャンスは、きっともう二度とないでしょう?

もう六人で笑い合えないのは寂しいけれど、これで永遠に、貴女達と一緒にいられるものね。










「みんな、私の望み、叶えてくれるでしょう?」





だって、私達、姉妹なんだもの。




















ぴちゃ、くちゃ。くちゃり。

口に含むのは、赤く、紅く、ひたすらに緋い、甘美な肉。


ああ、まるで、いつかエキドナが焼いてくれたチェリーパイのように甘い。
セイレーンの集めていた貝殻のように鮮やかで、アルラウネの淹れるハーブティーのように爽やか。
エンジェルの作ったマドレーヌのように濃厚で、リリスがくれた香水のように芳しい。


一口、また一口、じっくりと味わいながら、丁寧に口へと運ぶ。
指で摘まむと、お行儀が悪いとリリスに叱られるから、フォークとナイフを上手く使って、少しずつ食していく。
料理を残してはエキドナが勿体無いと嘆くから、欠片まで全部食べてしまおう。
それから、口元を汚さないように気を付けて食べなくちゃ。エンジェルが世話を焼いて拭ってくれるのも好きだけれど、私はもう子供じゃないものね。
アルラウネが頭を撫でてくれるのも、セイレーンがぎゅっと抱き締めてくれるのも、本当は大好きだけれど……子供扱いされてるようで、最近は少し、反抗しているの。そう、私だって、もうすぐ立派な大人の女性になるのよ。
貴女達のような、美しく可憐なレディに。
そして、貴女達のような、強く気高い戦士に。


光と共に、金色の卵殻が私を包む。
ああ、やっと、新しい私に成長できるのだ。
新しい世界が広がる。
新たな高みを目指すことができる。
これもすべて、貴女達のお陰だわ。







「ああ、だいすきよ、みんな」





これからは、生まれ変わった私と、共に生きましょう。

この先の悠久の時を、私の一部となって。


















(これで、もっと強く、強くなれるのね)